コンチネンスサポートチームの取組みがケア全体の向上に

人を育てる「組織」づくり

組織の存在意義や価値をスタッフ全員が共感、理解した上で業務に取り組む「ビジョナリー経営」に注目が集まっている。「顧客本位の仕事の進め方」の視点が芽生えるなど、職場の意識改革による人材育成が期待できる。介護人材不足が喫緊の課題となる中で介護事業者にとっても魅力的な経営手法だ。ビジョナリー経営を実践する「特別養護老人ホーム常磐苑」(埼玉県吉見町、社会福祉法人常磐福祉会・小田耕司理事長)は、「利用者一人ひとりの個性を大切に」「専門的知識、技術の研鑽に努め、ご利用者の立場に立つ」を理念に掲げ、実現のため、排泄ケアを多職種連携で実現するCST(コンチネンスサポートチーム)活動に取組んだ。実に4年間で「トイレ利用8割、おむつ利用2割」と劇的に改善。多職種が専門性を発揮して検討する組織づくりも進み、栄養、摂食、離床、歩行なども向上した。施設外第三者としてユニ・チャーム メンリッケ(東京都港区、森田徹社長)がアドバイザーとして介在することで、より専門的な知識の習得や、CST活動の活性化にも繋がった。2018年度改定で「排せつ支援加算」が新設されたことは、CST活動に取り組む施設の追い風となりそうだ。同施設事務長の榛原崇之氏に聞いた。


榛原事務長 「特別養護老人ホーム常磐苑」は定員80人(多床室)の特養施設で、居宅介護支援サービス、訪問介護サービス、デイサービス(定員30人)、ショートステイ(定員18人)事業も展開する。多職種が連携して排泄ケアの向上に取り組むCST活動の4年間の取組みを通じて「トイレ利用8割、おむつ利用2割」まで改善させる事ができたが、曲折もあった。
 というのは、当施設は1987年開設の30年以上を経た施設で、おむつ交換も「業務」として捉えていた。その中での良いケアとは「ちゃんと便座に腰掛けてもらう」「苦痛なくおむつ交換をする」「清潔なおむつをあてる」にとどまっていた。
 しかし、コンチネンスケアの考え方によれば、良い排泄ケアとは、介護を必要としない人の普段の排泄に近い状態を目指しているかということであって、いわゆるおむつ交換の良し悪しではない。そういう意味では、介護現場でコンチネンスケアを理解して、実践されている例はまだ少ないと思う。


コンチネンスサポートチームの取組みがケア全体の向上に

ケアのルーチン化は意欲を下げる

――コンチネンスケアに取り組むきっかけは。

 2013 年にユニ・チャーム メンリッケの「TENA」を導入したことがひとつの契機。この頃は、介護保険制度創設から10年以上経過し、利用者の介護状態が重くなっていた頃。
 24時間で何のケアをしているのかを書き出してみたところ、1日の4分の1はおむつ交換だった。このほか食事と入浴の3大介護で、1日のほとんどが終始している状況だった。
 当然、介護職の負担も高まっており、利用者に向かい合って関わる余裕もないほどの状態だった。ケア内容がルーチンワーク化することは介護職にとって「仕事が面白くない」と、意欲の面でも悪循環の連続だった。「何か違うな」と思いつつも、リーダーが何も行動を起こさないと、人はその環境に慣れはじめ、いずれ思考停止してしまう。
 介護職の着眼点も「○○さんのことですが」ではなく、「時間内に終わりそうにないのですが」となってしまっていた。

――「個別ケア」の実践が急務だった訳ですね。

 そうだ。「個別ケアの実践」が施設の理念であったことから、この実践に取り組む必要を感じた。そのためには人材育成だが、私は、組織づくりが良ければ組織内の人材も育つと考え、率先して組織づくりに取り組んだ。
 目標は「できるだけトイレ排泄を実現すること」。ほかにも「入浴を個浴にすること」や「食事を椅子に座りかえて摂ってもらうこと」などを目指した。そのためには、個別ケアの徹底が必要となる。

――ビジョナリー経営ですね。

 我々にとって「上手なおむつ交換」が目的ではない。施設の理念は個別ケアの実践であり、その目的はQOL向上や自立支援の実現。望む結果が出ないのであれば、取組みが間違えていたのではないかと検討し直すべきである。
 人に伝えるのは非常に大事で、特にリーダーには必要な能力。何も言わないリーダーは役割を果たしていないと言える。

施設外アドバイザー活用し多職種連携

――スムーズに移行できましたか。

 当時は施設全体で取り組むのではなく、試行的に施設内の1カ所だけで行った。メンバーも新人ばかりだった。新しいことを始めるにあたって、経験者はこれまでのやり方を変革することに抵抗があるからだ。
 効果は早く、1カ月くらいでおむつが取れる人が出てきた。おむつ交換は半分の3回になり、ケア時間の創出ができた。正確に言えば「おむつが必要のない人に、おむつをしていた」ということなのかもしれない。成果を受けて、この取組みが施設全体の取組みとなった。
 こうした新しい個別ケアの展開は、ルーチンワークを嫌う介護職にとっては、非常に興味を掻き立てられるものがあり、やり甲斐ともなった。介護職には、本人の尊厳を大切にするトイレ誘導をしたいと思っていた人が多いこともわかった。
 そこには施設外の立場から、コンチネンスケアの専門家であるユニ・チャーム メンリッケのTENAアドバイザーの支援は大きかった。例えば「尿量測定」によって何時頃にどのくらい出たのかを分析して、必要なタイミングで必要なケアができるようになったのは大きな変化だった。課題認識に対してのアドバイスも非常に役立った。

――多職種連携のCST会議発足の経緯は。

 個別ケアの展開から2年が経つ頃には、施設全体で、個別ケアに基づいたトイレ誘導などが徹底されるようになった。
 ただ、当時は委員会制で「排泄」「栄養」「口腔」などそれぞれの会のメンバーが、それぞれの分野ごとにケア向上を検討するにとどまっていた。こうした仕組みでは、全体の好循環とはならないので、排泄の実現の為に、飲んで、食べて、離床して、活動参加するなどの全般を包括するCST(コンチネンスサポートチーム)に一本化した。コンチネンスケアという視点から、個人を見て決めていこうということだ。
 嬉しい効果として、介護職が排泄ケアを当たり前にできるようになれば、それ以上のことがしたくなり、主体的に自分の「やりたかった事」を求め、意見するようになったこと。
 多職間連携は専門職の自信とプライドがぶつかり合う。ただ、介護福祉士は国家資格として歴史が浅く、介護の専門家として意見しにくい場面もあったが、コンチネンスケアを通じて立派に意見できるようになった。組織が人を育てることも、こうした活動から知らされたことだ。

――CSTメンバーのそれぞれの役割は。

 介護職は副主任クラスが各フロアから2人ずつ計6人が参加している。17年度には、役職のない介護職も志願してCSTメンバーに参加するようになった。
 ほかにも看護師や管理栄養士等が参加する。口腔ケアや口腔体操等の対応ができていないと食事が摂れないからだ。看護師は、現在の取組みに整合性があるのかをチェックする役割を担う。
 CST会議の流れは、1週目はアセスメント、2~3週目はモニタリング、そして4週目にはケアプランとして完成している。つまり、CST会議の取り組みが、優れたアセスメントツールそのものとも言える。

コンチネンスケアによるケア向上の評価の流れ

――18年度介護報酬改定では「排せつ支援加算」が創設されます。

 今回の「排せつ支援加算」の内容は、コンチネンスケアをされている施設では、日々の活動がそのまま加算となったという理解だろう。全国の介護施設でこうした取組みが弾みになることが期待できるもので歓迎したい。
 今回の「排せつ支援加算」が、現場の思い思いのやり方でバラバラの取組みを、体系立てて考えていく一助になれば良いと思う。国が報酬上の加算評価と言うかたちで報いてくれたことは嬉しく思う。

――コンチネンスケアに関して今後の目標は。

 在宅でのコンチネンスケアの展開を支援していきたい。原則として特養施設の新規利用は要介護3以上が要件のため、重度化する前の在宅の段階で、取り組んで効果を上げることができれば、特養に入所される時もコンチネンスケアを引き継ぐことができる。
 我々の施設では、そうしたコンチネンスケアのケアプランづくりができるケアマネジャーを育成していきたい。


排泄ケア向上からコスト管理まで 専属のアドバイザーが施設の課題解決をお手伝い

 ユニ・チャーム メンリッケ(東京都港区、森田徹社長)は、「排泄ケアの見直しをきっかけに、個別ケアの実践や組織成長を実現する」というビジョンのもとスウェーデン式の個別排泄ケアの普及に努めている。
 同社では、おむつ「TENAシリーズ」を導入した事業所に、「TENAアドバイザー」がつき、施設での組織的な排泄ケアの改善活動をサポートしている。
 事業所では排泄ケアに関わるチームCST(コンチネンスサポートチーム)を立ち上げ、コンチネンスケアの中心的な存在として活躍していく。TENAアドバイザーは、月に1度CST会議に参加し、施設の状況に合わせて、課題解決計画作成の支援やおむつのあてかたの指導、おむつ消費量やコストの管理など、CSTの運用をサポートしていく。
 このように、外部のアドバイザーを活用して第三者評価を取り入れ、施設の改善点や評価点を把握・議論することで、職員個人の育成にも繋がっている。
 TENAのおむつを導入している社会福祉法人常磐福祉会では▽介護職員▽管理栄養士▽看護師▽生活相談員――など11人がCST会議に参加。特養から通所介護など施設に関わらず排泄に関する課題解決に取組んでいる。2月下旬に行われたCST会議では、特養の利用者について、体重減少によるおむつのサイズ変更や、入所後の利用者の経過報告などが行われた。
 同法人の担当TENAアドバイザー高橋和代さんは、会議であげられた項目について、「使用するおむつのランクを変更する前に、尿量測定によるアセスメントが必要」「一部介助でトイレ排泄できるのならば、吸収量が大きいおむつにしなくてもいいのでは」など指摘していく。
 疑問に思うおむつ使用がある場合は、CST会議の場で指摘し、利用者の体格や身体状態をふまえ、正しい使用なのか全員で再検討している。また、より適切な製品選択や使用方法のアドバイスも行っている。
 CSTのメンバーは「排泄の課題を自分たちだけで解決するのではなく、フロアスタッフと共有し、意見を反映することで協力しあえる環境になっている」「通所介護や短期入所では排泄ケアへの意識が低かったが、排泄ケアの重要性を発信し続けた結果、『このご利用者は自分でトイレにいけそう』など排泄に関する意見が出てくるようになった」と手応えを感じている。
 「誤ったおむつの使用は、尿もれや不快感の原因となるだけではなく、コスト増加にも繋がる。事業所の状況をしっかりと理解して、よりCSTの活動が利用者へのケア向上や業務改善、またCSTメンバーのやりがいにも繋がっていくよう支援していきたい」と高橋さんは意気込む。