地域中核病院の排泄ケア標準化の取り組み~2025 年に向けた社会の変化のなかで

2014年8月29日(金),愛媛県松山市のひめぎんホールで第18回日本看護管理学会学術集会が開催された.ユニ・チャーム メンリッケ株式会社共催のランチョンセミナーでは,愛知県看護協会会長の鈴木正子氏による「これからの看護職に求められるもの」,刈谷豊田総合病院高浜分院看護・介護部長の泉ゆかり氏による「排泄ケアの課題解決に向けたオムツの標準化への取り組み~『病院オムツ利用』の仕組みの改善と定着に向けて~」と題した講演が行われた.


高齢者の増加によって変化するチーム医療の柱を担う看護師の役割

講演に先立ち,座長である鈴木正子氏が2025年問題を軸に「これからの看護職に求められるもの」と題した講演を行った.2025年は団塊の世代が75 歳を超え,何らかの病気をかかえた人が過去最大となるといわれている.鈴木氏は,「すでに現場では急激な受療率の高まり,認知症を伴った高齢者の増加を感じていることと思います」と語りかけた.

現在,医療行政は病院の機能分化や在宅への移行を進めているが,急性期病院から療養型病院への転院は家族の理解が得られにくかったり,在宅で看取りをすると決めても救急外来に搬送されてくるケースも多いのが現状である.また,在 宅医療においては,介護者の確保や家族の仕事との両立など,多くの課題がある.

「病気をかかえる高齢者が増加するなか,住み慣れた地域で最期まで安心して暮らしたいという思いに,医療者が応えることができるかどうかということです」と鈴木氏は説明した.

こうしたなかでチーム医療の推進に伴う看護師の役割拡大や能力開発が期待されており,「看護師は,自分たちがどのような役割を果たすべきかを考えなければならないときにきています」と話した.

看護師の活動の場は,病院から訪問看護ステーション,介護老人保健施設,社会福祉施設などに広がっている.鈴木氏は,「まだまだ足りないのが現状ですが,これまでのように看護師が働く場所が病院で完結するのではなく,働き方も多様化しています」と解説.この現状をふまえて,「病院では病院のルールに従って看護をしてきましたが,地域では個人がそれぞれの考えのもとで生活しています.看護師が地域に出るということは,その考え方を受け入れなければならないということです」と話した.そのためには,看護師に対する教育が重要であり,地域に出ていく看護師の育成も「管理職としての課題」である.

また,病院と在宅では看護の継続性という点でも違いがある.「病院は交代制で常に 看護師がいますが,訪問看護や訪問介護は時間がかぎられています.残りの時間は誰がみるのかもみんなで考えていく必要があります」と鈴木氏.療養場所も在宅を中心に,入院,退院,通院と繰り返すため,ケアの連続性という視点では,地域でどのようなチームを組めばよいのかも課題である.鈴木氏は,「病院のなかでも,退院サマリーを書くときや医師との間で言語が共通化して いないという問題もあります」と話した.

今後は医師のいないところで働く機会が増えるため,看護師自身の「病気を知る力」や「フィジカルアセスメントができる」 といった能力が求められる.「医師のいないところで自分で判断しなければなりません.どのように教育していくのか,自分たちが学んでいくのかという本当の力が求められるのではないかと考えています」と鈴木氏は話した.

多職種協働を推進するうえでのキーパーソンは看護師であり,出産から看取り に至るまでの間,「できるだけ病気にならない,病気になっても悪化させない,最期は幸せな人生だったと言ってもらえるようにすることが看護の役割であるということを伝えたいと思います」と鈴木氏.

最後に,本セミナーのテーマである排泄ケアに対しては,「病院での24時間態勢の看護を在宅で行ううえでは,負担の大きな排泄ケアは患者・家族にとって大きな問題であり,ケアが開始される病院において,“その方に最適でシンプルなケア”を設定し,退院後に引き継いでいくことが大変重要です」と話した.

図 刈谷豊田総合病院での『オムツ標準化プロジェクト』


持ち込みから病院オムツ利用へプロジェクトを立ち上げ

続いて,2014 年3 月まで刈谷豊田総合病院で看護部副部長を務めていた泉ゆかり氏が,同院における排泄ケアの課題解 決に向けたオムツ標準化の取り組みについて講演を行った.

641床の地域中核病院である同院では,入院患者の高齢化が進み,約30%がオムツを使用している.「オムツ交換による患者の夜間の不眠は大きな課題です.また, 家族が患者の体型や尿量に応じたオムツを選定するのは困難ですし,そのつどオムツを準備するのも負担となります」と泉氏は説明.

スタッフにとってもオムツ交換業務の負担,多種多様な持ち込みオムツへの対応の困難さ,家族にオムツの準備を随時依頼することへの負担,多量のオムツのストックによるベッド周囲の煩雑さといった問題点があった.

そこで同院では,2010年から病院採用のオムツを有料で利用できる病院オムツ利用の仕組みを開始.しかし,利用率は10%台から伸びず,課題は未解決のまま3年が経過したという.そのため,2013年に病院オムツ利用の仕組みを見直し,オムツの標準化を推進するプロジェクトを立ち上げた.そのなかでTENAのコンセプトと同院の目指す排泄ケアに共通点が多かったことから,TENA導入を検討したという(図)

プロジェクトでは,全病棟への調査をもとに導入に必要な取り組みを3つの役 割に分担して同時進行した.これまでは入院案内にオムツ利用の説明がなく,説 明用紙を知らない看護師が多かったため,借用病衣とオムツの説明・申込用紙を1 枚にまとめ,入院案内にセットして必ず説明するようにした.また,一律料金だったオムツの価格体系から使用枚数ごとに計算する方法にした.

さらに,スムーズな導入と患者一人ひとりに合った排泄ケアを実践するため, 全18病棟から1~3人のメンバーを集めてCSTを組織し,教育を実施.約600人の看護部全スタッフを対象に勉強会を開催した.オムツの供給方法はSPD,価格や料金の徴収方法は医事室とも検討を重ねた.

約半年の準備期間を経て,TENA導入となったが,導入から3日間はプロジェ クトメンバーが担当病棟をラウンドし,オムツ交換の手技を直接指導したり,漏 れ対策をともに検討するなど,個別の問題に対してもきめ細かくサポート.情報 伝達シートや個別情報用紙を活用し,TENAアドバイザー※の支援も受けた.CSTの全体会議でも排泄ケアの問題点や困っていることを共有し,課題解決をはかったという.

TENA導入によってオムツ交換回数は減少したものの,1か月後のCST会議ではオムツ交換の手技や意識清明な患者からオムツ交換を希望されたときの対応な ど,多くの課題があげられた.これに対してもTENAアドバイザーからその場で 回答を得て問題解決をはかったという.導入直後に下痢の患者の便漏れや陰部の 皮膚トラブルなどが報告された際にも,プロジェクトメンバーが迅速に調査を行 い,皮膚・排泄ケア認定看護師や皮膚科医と相談のうえ,対策を行った.

「導入5か月後にはTENAの扱いにも慣れ,個別の状況に応じた対応ができるよ うになりました.体型などの特徴から尿漏れがみられる患者さんもいましたが, それに対してもどうしたらいいのかを考えて対応できるようになりました」と泉氏は解説した.

TENA導入から1か月で目標であった 病院オムツ利用率50%を達成し,その後 も65~70%の入院患者が病院オムツを利用.以前は一律450 円/日で提供していた オムツ費用も1人1日当たり平均200~250円前後に抑えられた.「使用した分のみ 料金を徴収する方法に変更したことで,オムツ利用の対象患者さんが拡大し,1 日1~2枚使用の患者さんにも利用してもらえるようになりました」と泉氏.TENA導入によるオムツ使用量の減少で,廃棄量も減るなどの効果も出ている.

図 成功のポイント


排泄ケアへの意識が高まり 病院オムツ利用率も目標を達成

導入後のスタッフアンケートでは,尿・便漏れに対して63%が「対策をとれている」と回答.交換表示ラインも72%が活用していた.また,40%以上の看護師から 交換回数の減少や交換時間の短縮,オムツが薄くなったことで違和感が減ったといった肯定的な意見が寄せられた. TENA導入の目的でもあった病院オムツ 利用率向上の理由については,「説明用紙や申込用紙を病衣と一緒にし,料金体系を変更したこと,スタッフの働きかけが増えたことが大きな要因だと考えます」と泉氏.

オムツ利用率の向上により,患者家族へのオムツ準備依頼が減り,ベッド周囲が整理されたと回答した看護師が60%以上にのぼるなど,業務軽減,療養環境の改善もみられている.

泉氏は,「こうした取り組みを通じて患者さんの病状,体型,排泄パターンなど, 個別性をふまえた排泄ケアの意識も高まりました.ケアの改善には,現場の情報をタイムリーに,正確に把握し,迅速な指示と継続的な支援を行うことが重要だと学ぶことができました」と説明した.

2013年末でプロジェクトチームは解散し,現在は看護部の業務改善推進委員 会が活動を引き継いでいる.泉氏は「皮膚・排泄ケア認定看護師とコラボレーシ ョンし,さらなる排泄ケアの質向上を目指していきたいと考えています.病院オ ムツ利用率100%を目指し,運用要領書に基づいた排泄ケアが実践できるように 教育していくことが重要だと思います. また,地域中核病院として院内で確立し たケアを地域に引き継いでいくという役割も果たしていきたいと考えています」 と結んだ.

※TENAアドバイザー:施設・病院のコンチネンスケアの課題やコスト効率を分析してサポートする専門アドバイザー