看護師の排泄ケアに対する認識を高めケアの継続が可能なしくみづくりが必要

2014年4月8日,9日の2日間にわたり,第5回排泄ケア国際フォーラム(GFI)がスペインのマドリードで開催された.8月号のレポートに引き続き,本フォーラムに参加した聖路加国際大学大学院看護学研究科の渡邊千登世氏に,このフォーラムでの発表から学ぶべきこと,日本における排泄ケアの課題について話をうかがった.



海外における高齢化を見越した排泄ケアへの取り組みに学ぶ

──排泄ケア国際フォーラムに参加された感想,課題だと感じたことをお教えください.

今回のフォーラム参加は,排泄ケアについてさまざまな視点から考える機会になりました.海外では,ヨーロッパを中心にかなり早い段階から高齢化を見越した排泄ケアへの取り組みを進めています.本フォーラムでも,高齢化社会における失禁の問題とそれに対応する各国の社会システムについて多くの発表がありました.

スウェーデンでは,通常の失禁の診療に加えて失禁領域専門の看護師が指導やケアにあたり,チーム医療のなかでコーディネータとしての役割を果たしています.これにより,患者のQOL向上だけでなくコスト削減にもつながっています.

また,パネルディスカッションのなかで,「失禁を抱える患者が受診先を認識していないために適切な治療やケアが受けられない」という課題解決に向けてつくられた“最適な排泄ケアサービスモデル”も示されました(図1).注目すべきは,尿失禁に対する適切な治療やケアを行うために,初期のアセスメント・治療には排泄ケアの専門看護師を活用することが示されている点です.アセスメント後は地域のサポートを得たり排泄ケア用品を選択し,必要に応じて専門家に紹介します.

一方,日本は世界で最も高齢化率が高いにもかかわらず,政策立案者や医療従事者,患者の排泄ケアの重要性への認識が低く,排泄ケアへの対応が遅れていると感じます.日本では失禁患者に対して定期的にオムツ交換を行っており,看護の現場でもそれがベストなケアだと認識されています.しかし,それは患者の尊厳や個別性を重視したものとは言いがたく,業務中心のケアです.排尿がないにもかかわらず頻繁にオムツを開けられることで尊厳は損なわれますし,すべての患者が毎回同じ時間に排尿するわけではありません.

私自身,急性期病院に勤務していた当時を振り返っても,治療介入が可能かどうかを判断するための適切なアセスメントや排尿パターンをふまえたケア,オムツやパッドの選択はできていませんでした.便や尿の漏れはオムツを当てて対処しており,どういう状態で漏れているのかまで深く堀り下げてアセスメントをすることはあまりなかったような気がします.今回,改めてアセスメントに基づいた排泄ケアの重要性を認識するとともに,日本における看護師の失禁に対する知識やアセスメント能力不足を改めて痛感しました.

日本においても,人間の生理機能を理解し,適切なアセスメントのもとに尊厳を重視して“自立を促すケア”へと転換をはかる必要があるのではないでしょうか.


専門知識を持つ看護師による失禁外来をアクセス先に

──日本における排泄ケアのしくみづくりには,どのようなやり方が考えられますか?

日本において排泄ケアのしくみづくりを行ううえでの大きな問題は,医療者側の「尿失禁は治療介入できる」という認識が低く,患者のアクセス先がない地域が多いこと,もしくはアクセス先はあっても,患者側に尿失禁は疾患だという認識がないことです.これは,個人の努力だけで解決できるものではありませんが,いまできることから変えていくことが重要ではないでしょうか.

患者のアクセス先としてすぐに活用できるのは,皮膚・排泄ケア認定看護師やコンチネンスアドバイザーです.最近では,皮膚・排泄ケア認定看護師が立ち上げている失禁外来もありますし,専門知識を持つ看護師が最初のアクセス先となり,アセスメントをもとに適切なオムツの選択やケアを行うことは可能だと考えます.

診療報酬の算定がないこともあり,失禁外来の開設数は少ないですが,先駆的に失禁外来を立ち上げている皮膚・排泄ケア認定看護師やコンチネンスアドバイザーは豊富な知識と高い技術を持っています.実際に泌尿器科や婦人科からの紹介も多いと聞きますし,失禁の原因のひとつして糖尿病がみつかり,早期治療につなげられたケースもあったといいます.この場合は適切に糖尿病がコントロールできれば,尿失禁の改善も見込めます.この取り組みは,排泄のアセスメントに基づく治療やケアが尿失禁のみならず,患者の健康支援につながることを示しているのではないでしょうか.

もうひとつは,地域包括支援センターの相談機能の充実です.介護者である家族にとっても排泄ケアは大きな負担となります.地域包括支援センターに排泄ケアの専門知識を持つ看護師を配置し,在宅に戻った後にも適切なアドバイスをしたり,必要に応じて受診の提案ができれば,家族の不安や負担も軽減すると思います.

一方で,「失禁は疾患」であることを患者や家族に啓発していくことも重要です.多くの患者は「高齢になれば失禁するのは仕方のないこと」と捉えています.ですから,地域のなかで「失禁は治療可能な疾患である」ことを広めて早期受診を呼びかける必要があります.いずれにしても,いまある資源を活かし,いろいろな知恵を出し合うことが重要ではないでしょうか.


尿失禁には治療介入できるものがある看護師の意識変革が必要

──看護師の排泄ケアへの認識を改めるためにはどのような取り組みが必要でしょうか?

病院では皮膚・排泄ケア認定看護師などを中心にした勉強会などもあり,一般的な排泄ケアについて学ぶ機会はあります.しかし,尿失禁は治療介入できる疾患であり,排泄ケアにおいては,患者の尊厳が守られるべきであるという教育はあまり行われておらず,失禁患者に対するアセスメントやケアに対する指導もまだまだ不足していると思います.たとえば,介護施設や在宅に戻った後もオムツをつけ続けている方が多いですが,これは病棟看護師が退院後,どういう状態になればオムツを外してよいかを指導できていないことも一因ではないでしょうか.

急性期病院のように在院日数の短い施設では,すべての患者の排泄のアセスメントを,専門知識のある看護師に依頼することは困難です.実際にケアを行う病棟看護師が患者の尊厳を守る排泄ケアの重要性を認識してケアを行うこと,アセスメントに基づき,入院中から排尿パターンをふまえて自立を促すケアができるように教育・指導していく必要があると思います.

もうひとつの課題は,認知症患者の失禁への対応です.これに対しては介護職への教育と協働が求められます.各施設の皮膚・排泄ケア認定看護師がコンサルテーションの依頼を受け,地域の介護施設でアセスメントの方法を指導したり,一定期間,排泄介助や誘導を一緒に行うなど,教育的なかかわりができれば介護職の知識の底上げも可能だと思います.

──最後に読者にメッセージを.

最も重要なのは,治療介入可能な失禁があることを医療者が認識して患者に対して積極的に情報を提供し,理解を促していくことです.現場においては,患者の個別性といいながら,業務中心になりがちな排泄ケアの現状をもう一度見直すべきだと思います.そのためには,看護師一人ひとりが尊厳を重視した排泄ケアを意識し,自分たちで変えていかなくてはいけないのではないでしょうか.

皮膚・排泄ケア認定看護師にも多くの活躍の場があります.今後は高齢者が増えるという現実を見きわめ,失禁領域にもっと目を向けてほしいと思います.


GFI:global forum on incontinence,排泄ケア国際フォーラム