適切な排泄ケアの実践がQOL向上と社会経済コストの削減につながる

2014年4月8日,9日の2日間にわたり,第5回排泄ケア国際フォーラム(GFI)がスペインのマドリードで開催された.30か国以上から参加者が集い,今日の社会・経済的背景のなかで失禁が患者のQOLに及ぼす影響について学ぶとともに,将来に向けた患者中心の質の高い継続的なケアについて議論が行われた.



失禁は全世界で約4億人に影響を及ぼしている疾患

排泄ケア国際フォーラムは,排泄ケアに関する啓発および議論を行う場として2006年に発足.隔年で世界各国の研究成果や実践を共有するとともに,積極的な意見交換を行う場となっている.

発足当初は,排泄ケアや治療の最新知識や技術に関する発表が中心で,参加者も医師や看護師などの医療従事者や研究者が多数を占めていた.しかし,回を重ねるごとに失禁による社会的な影響の大きさがクローズアップされるようになったという.

今回も医療従事者や研究者のほかに,各国の政策立案者,排泄ケアの専門家,患者団体や介護者団体の代表,ヘルスケア・社会ケア団体の代表など,幅広いジャンルから有識者が参加した.このことからも,世界において失禁という問題は,患者個人のQOLに及ぼす影響だけでなく,社会的に高い注目を集めていることがわかる.

2011年のWHOの調査によれば,世界に失禁患者は約4億人いるとされ,世界ですでに問題となっている肥満(約3.5億人)よりも患者数が多い.本フォーラムの大会長の1人であるヨーテボリ大学のイアン・ミルソム氏は,「失禁は,深刻な疾患であり,多くの患者は症状があっても高齢であるため仕方がないこととあきらめている」と講演した.

本フォーラムでは,高齢化社会における失禁の問題や社会システムとの統合など,多くの演題発表やワークショップが開かれた.また,そのほかに最新の情報として,失禁が精神的・身体的に及ぼす影響,認知症と失禁がある患者のためのケアガイドラインについての講演などが行われた.

失禁が社会に与える経済的な影響の大きさ

オープニングセッションでは,オーストラリア政府の支援を受けて排泄ケアのサポートを行っているThe ContinenceFoundation of Australiaが2011年に実施した「失禁が社会に与える経済的インパクト」という調査結果に注目が集まった.これは,オーストラリア政府に排泄ケアにおける社会システムの見直しを提言する目的で行われたものである.

本調査によれば,オーストラリアの全人口のうち約480万人,もしくは15歳以上の1/4に失禁の症状がみられるという.失禁症状があることによる経済的な負担はみえにくく,具体的な費用が発生するわけではない.しかし,家族による介護も無償ではなく,失禁があることによる損失は,年間667億オーストラリアドル(約6兆3300億円,失禁者1人あたり約140万円)※1にのぼるという.その内訳は,「失禁がある人の労働力の損失」が51%を占めており,次いで「疾患の負担から生じる費用」が36%となっている.「労働力の損失」は,患者自身の収入減に加え,それによる税収の減少にもつながる(図1).また,「疾患の負担から生じる費用」とは,日常生活や趣味などを含む“失禁がなければできていたこと”をあきらめてしまうことを費用に換算したもので,失禁は患者のQOLの減少にとどまらず,経済的にも大きな負担となっていることが明らかとなった.


継続的なケアを実践するための最適な排泄ケアサービスモデル

本フォーラムのハイライトとなったのが,“最適な排泄ケアサービスモデル”の発表であった.国際的な排泄ケアの指針としては,ISO15621がガイドラインとして使用されているが,これは排泄ケア用品の選択の基準を主としたものである.

一方,今回発表された排泄ケアサービスモデルは,患者中心で質が高く,経済的な排泄ケアを提供するためのケアモデルで,これまで排泄ケアに関しては幅広く実践されている標準ケアモデルがなかっただけに,高い注目を集めた(図2).

本モデルの作成にあたったKPMGヘルスケア,ライフサイエンス戦略グループのヒラリー・トーマス氏によれば,「初期診断と治療には,排泄ケアの専門知識をもつ専門看護師を活用すること,専門看護師の活用が難しい場合には,ほかの専門職への教育を実施することが重要である」という.

失禁は泌尿器科外来で診断されることもあるが,多くはほかの疾患でかかりつけ医を受診した際に発覚することが多い.失禁の程度を診断し,適切なオムツやパッドの処方を行うが,失禁の程度が中等度以上であれば,介護者,コーディネーター,患者が入り,ケースコーディネーションを行う(図2-3).

患者中心の排泄ケアの実践には,包括的に患者をコーディネートできるケースコーディネーターの活用が重要であり,セルフケアのための技術とツールの活用,排泄ケア用品選択,地域によるサポートの実践が求められる.患者に必要なオムツやパッドを手配したり,排泄ケアを実践するために必要なサービスを地域で受けられるように手配するのがコーディネーターの役割である.

人的資源が不足している場合には,ケアの提供の代わりにセルフマネジメントを強化したり,ビデオモニタリングシステムなどで補ったり,インターネットや通信機器などを活用して,ヘルスケアの専門家とを結びつける「技術の活用」を行う.

また,失禁が重度で手術が必要な場合には,専門家によるアセスメントと治療に移行するという切れ目のないシステムモデルとなっている.

このモデルは,オランダで従来の排泄ケアアプローチとの比較調査が行われ,医療費の削減や患者,家族双方のQOL改善につながるとの結果も出ているという.


重要なのはアセスメントに基づいた持続可能なケアの確立とそれを地域で繋いでいくこと

このように適切なケアをつなぎ,ケアの歯車を回していくことが,継続的な排泄ケアを行ううえで最も重要なことである.そのためにも,本フォーラムでケアモデルが示されたことは大きな一歩であるといえるだろう.

日本においても一般的にはじめて排泄ケアの診断・治療を受ける場所は,ほかの疾患で受診したかかりつけ医や,その後に治療や入院で訪れる急性期病院などであることが多い.

その際,患者の症状などのアセスメント結果はもちろんのこと,介護力など退院後の生活をも見据えて適切な治療や排泄ケアなどの対応を選び,確立することが,その後の患者本人・家族のQOLを大きく左右することになる.

この初期のケアや治療の判断には,排泄ケアの知識と技術をもった専門職を活用すること,また各地域における役割を明確にしたうえで,病院で確立された適切な排泄ケアが切れ目なく実施できるようにしていくようにすることが,いま求められている.


GFI:global forum on incontinence,排泄ケア国際フォーラム
*1 オーストラリアドル= 95 円で換算
*2 GP Incontinence Study conducted by Ipsos, sample of 551 GPs. Internists across France, Poland, UK, fieldwork March 2010.