地域における切れ目のない排泄ケア実現のために 兵庫県但馬地域における排泄ケアの取り組み

高齢化が進むなかで,安心して在宅に戻れる環境をつくるために,地域全体で排泄ケアの向上に取り組みはじめた地域がある.この地域では,2月23日に専門職が集まり,セミナーが開催された.兵庫県但馬医療圏の排泄ケアの取り組みについて報告する.

 

地域中核病院
高齢化率の高まりと拡大する地域中核病院の役割

入院中だけでなく退院後の生活を考慮

兵庫県北部に位置する但馬医療圏には,中核病院としての役割を担ってきた豊岡病院を含む9つの公立病院があり,公立八鹿病院老人保健施設を含む6つの介護老人保健施設がある.現在,但馬医療圏の高齢化率は34.7%で,老老介護や独居,医療依存度の高い高齢者の増加などの課題に直面している.

近年,豊岡病院では,ドクターヘリやドクターカーの整備など,急性期医療態勢の充実に重点がおかれてきたという.「一方で限られた病床数のなか,慢性期の患者さんにも対応しなければならず,当院以外の病院や介護施設,在宅につなげていかなければなりません」と話す.

2013年5月,豊岡病院では看護業務の改善を目的にTENAを導入.「夜勤帯の排泄介助やオムツ交換の回数を減らし,患者の観察に時間をかけることで安全な医療を担保したいと考えました.また,急性期医療が中心の現場では排泄ケアが“ケア”ではなくなっているとも感じていました.在宅介護者の負担を減らしたいとの思いも,今回の見直しのきっかけとなりました」と説明する.

各病棟からオムツ係を選出し,院内で排泄ケアの勉強会を開催.患者や家族への説明や同意書の作成などを行った.

「TENAを使用することだけでなく,個別性の高いオムツ選択ができるように,皮膚・排泄ケア認定看護師にも協力を得て,もう一歩上の排泄ケアをめざしたい」と話す.

院内における排泄ケアの向上と並行して課題となっているのが退院後の患者の排泄ケアの状況把握である.現在同院では,排泄介助などの支援が必要な患者に対し,入院時にMSWが退院調整スクリーニングシートなどを活用して情報収集を行っており,退院前には病院と在宅の各担当者が参加するカンファレンスも開催している.しかし,TENAを使用して褥瘡が改善した患者が退院後,TENAの使用を継続できず,褥瘡で再入院するケースなどがあるという.

「患者さんが安心して退院できる環境を整えるのは病院の責任です.退院時の指導や支援を活かせているのかなどの情報をフィードバックしてもらう仕組みづくりが必要です.指導は適切だったのかを検討することで,次の指導がよりよいものになると考えています」と話す.

病院からスムーズに在宅に移行するためには,退院前から,退院後の生活のイメージを患者や家族,在宅のスタッフと共有し,連携することが求められる(図1).


今回のセミナーをきっかけに,「地域包括支援センターの担当者と,互いに情報を共有できる場を設定しようと話をしました.それぞれトップが変わっても継続できるよう,システム化して話し合う場をつくることが重要です.顔が見えて,お互いのぬくもりを感じながら話し合う場をもたなければ,質の高い看護を実践し,患者さんに還元できないと思います」と語った.

今後は,但馬医療圏全体での連携をさらに強化し,入院時から退院後の生活まで,地域で安心して療養生活が送れる環境づくりをめざしていく.

*MSW:medical social worker,医療ソーシャルワーカー


地域中核病院と在宅
地域全体をチームとしてビジョンを共有し専門性を発揮する

適切なケアの情報をつなぐ

津禰鹿氏は,訪問看護認定看護師としての立場から,「排泄ケアへの対応を抜きに在宅での介護力の軽減は考えにくいのが現状です.排泄ケアを軽減することは介護者の負担の軽減にもなりますが,要介護者本人の気持ちが軽くなったり,QOLの向上にもつながります」と話す.

在宅への移行をスムーズに進めるためには,病院と在宅の医療スタッフとの連携によって人と物,情報,環境をつなぐことが重要であり,「オムツという“物”についてだけでなく,適切な製品,正しい当て方やその方に適した交換時間など,“適切な情報”を伝えることが大切です」と説明する.

事例:70代,女性,胃瘻造設済(入院2か月)

夫との2人暮らしで,キーパーソンは近所に住む娘.母親の介護に積極的である.患者は肌が弱く,娘はオムツ交換をしっかりしてあげたいと希望.尿・便失禁によるスキントラブルの悪化が予測されたが,入院中から毎日,娘が病院に通い,オムツ交換や陰部洗浄,胃瘻に経腸栄養剤を注入する方法の指導を重点的に受けた.最初はオムツの位置がずれたり時間がかかることもあったが,指導を重ねるうちに娘ひとりでオムツ交換ができるようになった.

患者の情報は,退院前カンファレンスで病院と在宅のスタッフが共有をはかり,退院となった.体調が悪化し,訪問看護が導入された際のサービス関係者会議では,肌の弱い患者に対する注意点や訪問看護の回数の調整などを話し合った.

「実際,訪問してみると,発熱はありましたがオムツ交換や陰部洗浄,経腸栄養剤の注入といった退院前に指導した手技は問題なくできていました.経腸栄養剤の注入時間が長く,夫や娘の生活に支障がでているという相談があり,経腸栄養剤の半固形化による時間短縮と栄養指導を行いました.退院前からきめ細かく実践的な指導ができ,介護者の不安が軽減できたこと,退院前カンファレンスによる情報共有や退院後のサービス関係者会議によるフォローもできました」と説明する.

津禰鹿氏は,在宅医療に必要なチーム医療の視点について表1をあげ,「知識や技術を深めると同時に,“もっといい方法はないか”と,より高い目標設定ができ,ともに成長し合い尊敬できる仲間をつくること,患者さんを大切に思うと同時に,仲間自体を大切にすることが重要です.スタッフが疲弊しないように,“つらいね”“私も悩んだ”などと声をかけあうことも必要です.但馬の仲間には自分の職種と自分たちのチームにいい意味でのプライドと責任をもって,できることを考えてもらいたいと思います」と強調.本セミナーを機に,「ひとりでも多くのスタッフの名前や職種を覚え,地域での人的交流をはかってほしい」と話した.


老人保健施設から
老人保健施設の役割と連携家族アンケートより在宅支援を考える

TENA導入を機にスタッフの排泄について考える習慣が確立

公立八鹿病院老人保健施設は通所施設と入所施設が併設されている.要介護4と5が50〜60%,認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上が50%前後,医療依存度の高い入所者が多いのが特徴である.

同施設は,2012年4月当時,兵庫県下で3施設しか認可されていなかった在宅強化型老人保健施設であり,在宅復帰,在宅支援の役割強化を課題として取り組んでいた.日ごろ,退院指導のなかで,在宅での介護の負担感は排泄ケアによるものが多いという実感と,日々の業務のなかで多くの時間を占めている同ケアの見直しをはかる必要性を感じていた.

オムツ交換にかかわる業務量の軽減は,在宅における介護者の負担軽減にもつながるとの考えのもと,2012年9月,TENA導入に至った.10月には業務委員会での説明会やスタッフ全体の勉強会を開催.TENA導入の過程でモニタリングを行い,業務量の軽減や,オムツの量などを比較した.

勉強会では,導入の目的の共有に力を入れるとともに,排泄ケアについての考え方,アセスメント方法の統一を強調.勉強会参加者すべてがオムツを実際に装着し,つけ心地も体験したという.

「実際のオムツの量や交換の時間,ごみの量などの評価結果をもとに,入所者一人ひとりに合ったオムツ選びを行いました.種類,サイズをはじめ,在宅に戻ったときの介護力も考慮して決定しました」と話す.そのほか,排尿習慣を経時的に把握したり,オムツ交換時の尿量測定も実施.尿漏れやスキントラブルの有無などを検討した.

「フローチャートを作成して排泄ケアの考え方と手順を統一しました.以前の交換回数は平均で5〜6回でしたが,導入後は2〜3回に減少しており,業務改善につながったと考えています」と山下氏.以前から排泄ケアへの取り組みは進めていたものの,排尿量の観察やオムツ選択などを統一することで,排泄について考える習慣が確立でき,「スタッフが家族の介護負担を考え,自発的に家族への説明を行うようになった」という.

その結果,説明したことが在宅で活かされているのかを知りたいと考えるようになり,再入所となった際,家族にアンケートを実施.退所時の説明に不備がなかったか,それが実際に介護負担の軽減につながっているのかという2つのポイントについて6家族から回答を得た(図2).


「生の声を聞き,これまでの取り組みは間違っていなかったと感じるとともに,在宅支援のなかで一定の手応えを感じています」と話した.

さらに,利用者や家族を中心に,病院や施設,在宅にかかわるすべてのスタッフが問題点について,「情報や支援方法の共有,連携をはかることが重要だと思います」と説明した.


医療機関同士のコーディネートが一般病院の役割

地域特有の課題を共有し行政も巻き込んで取り組む

2013年の日本の高齢化率は24.1%で,なかでも75歳以上の後期高齢者の増加が著しい.認知症患者も年々増加しており,2015年には,65歳以上の高齢者人口に占める認知症患者の割合は7.6%にのぼるとみられている.世帯構成の変化や独居高齢者も増加しており,地域のなかで老年期をどのように暮らしていくか,その対策も課題となっている.

地域における包括的なケアは,30分でかけつけられる範囲を日常生活圏域とし,①医療との連携強化,②介護サービスの充実,③予防の推進,④見守り・配食・買い物など多様な生活支援サービスの確保や権利擁護,⑤高齢者になっても住み続けることのできる高齢者住まいの整備などが必要とされる.

しかし,地域のコミュニティは,それぞれの地域によって,気候,風土,文化,慣習など環境が異なるため,「別の地域と同じやり方をしようと思ってもなかなかうまくいきません.そこに住む方が地域のニーズをふまえて人々の豊かな生活をめざすことが重要であり,これを共通目標にできるかが大事になります」と説明する.

多様化する地域のニーズに応えるためには,多職種チームで行う援助活動が必要となる.また,密な連携をはかるためにはコミュニケーションが重要であり,「協働力をもたらすコミュニケーションとは,相手の尊重なしにはできません.現場では,中堅や役職のあるスタッフにこの力が求められます」と話す.

大塚氏は,地域連携における一般病院の役割として,地域における課題を抽出すること,医療機関同士の連携のコーディネーターが機能することの重要性を強調.「地域特有の課題を共有し,情報共有のツールを導入すること,行政にもはたらきかける必要性がある」とした.

また,取り組みの成果を明らかにし,広報活動や学習を進めることも重要となる.「排泄ケアはとても重要なケアですが,療養の場所が変わると同じケアを継続することが難しくなります.たとえば,排泄ケアにおいては,地域に開かれた排泄委員会もつくり,広報活動を行うことも大切」と話す.さらに,地域の病院で使用しているオムツが在宅でも使用できるように,「市からの支給オムツのなかに入れてもらうなどのはたらきかけを行うことも重要」だという.

「地域の看護師がつながることで,高齢者の生活支援がシームレスでどこでも同じケアが受けられるようになります.看護職だけにとどまらず,ほかの職種,ほかの機関,行政も巻き込んで取り組むことが管理者の役割のひとつだと思います」と説明した.

セミナー終了後アンケートより

2014年2月23日にユニ・チャームメンリッケ株式会社主催で行われた但馬地区排泄ケアセミナーには,地域の看護・介護従事者,ケアマネジャー,地域包括支援センター担当者など100人が参加.セミナー後のアンケートでは,排泄ケアに対する課題や今後の地域での取り組みに前向きな姿勢がうかがえた.


セミナー当日の様子


自由回答(一部抜粋)

     
  • 今後,高齢化率が高くなり,要介護者が増えるなかで,後方支援病院のあり方,一人ひとりの力を高め,地域・在宅との連携・協働ができるよう努力したい.
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  • 他職種との連携,それぞれのチームメンバーの強みや顔だけでなく人となりまでを理解してこそのチームであることを改めて考えさせられた.
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  • 顔の見える関係性の大切さを感じた.医療機関から在宅へ送るとき,顔の見える関係なら情報も伝えやすく,安全な方法が提供できる.小さな取り組みから但馬地域全体へ広げていくことが大切だと痛感した.
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  • TENA導入のメリットがわかりやすかった.病院,施設,在宅で継続したケアができるよう,情報交換や連携が必要だと感じた.
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  • 複数の事業所を利用される方もいるため,但馬地区のどこの施設でも同じ排泄ケアをしてもらえるようになれば,本人,家族ともに安心につながる.