皮膚・排泄ケア認定看護師に聞く 地域への個別性の高い排泄ケア普及に向けて──秩父地域の取り組みから

排泄ケアの専門知識をもつ皮膚・排泄ケア認定看護師.しかし,同領域は褥瘡ケアやストーマケアなどカバーする領域が広く,排泄ケアへの積極的な取り組みが進んでいないのも現状だ.
地域全体で排泄ケアに取り組もうと皮膚・排泄ケア認定看護師を中心に活動を続ける秩父市立病院の藤原治子さんに,埼玉県秩父地域の取り組みと排泄ケアの重要性について話を聞いた.

 

尊厳を守る排泄ケアの普及が使命

──皮膚・排泄ケア認定看護師として,排泄ケアに力を入れるようになった経緯を教えてください.

私は看護師になってからというもの,スキンケアへの関心が高く、当院で褥瘡対策委員会が発足したときのメンバーになるなど,自身が看護師としてスペシャリストへの道を意識したときにはこの領域しかないと思いました.

私が皮膚・排泄ケア認定看護師の資格を取得した同時期に,秩父地域では秩父地域看護師会(図)が発足しました.同会で地域全体で排泄ケアに取り組んでいくという方針が打ち出され,各施設に排泄委員会が設置されました.

皮膚・排泄ケア認定看護師がカバーすべき領域には褥瘡・ストーマ・排泄ケアの3領域があります.しかし,診療報酬上の加算がある褥瘡やストーマ中心に行われている場合が多いと感じていました.また,ちょうどそのころ,病棟である患者さんから,「看護師さんにオムツで用を足していいと言われてつらく,悲しい思いをした」という話を聞きました.車いすを使えば看護師の見守りだけでトイレに行ける患者さんでしたので,患者さんにこのような思いをさせないためにも排泄ケアへの意識を高める必要性を強く感じました.

トップダウンによる方針に加え,「現場で見聞きした現状を変えたい」という認定看護師としての思いが合致し,「秩父地域のどの病院,施設,在宅でも,人間の尊厳が守られ,統一された個別性の高い排泄ケアが継続できるようにしたい」という気持ちがより一層深くなりました.


排泄の自立は在宅での生活継続の鍵

──地域全体で排泄ケアに力を入れることのメリットは何ですか?

当院でも,病棟看護師から排泄委員会委員に,「この患者さんは排泄が自立できれば在宅に戻れるので,カンファレンスを開いてほしい」と相談されることがあります.病棟からの意見を大切に,一つひとつの事例に対応していくことが排泄ケアを考える機会になります.排泄はどうしても二の次になってしまいがちですが,診療報酬でも在宅復帰率が重視されていますし,実際に,急性期治療後に排泄の自立をめざしたリハビリを開始することで自宅に戻れる患者さんは少なくありません.「失禁はあっても,家で過ごしたい」と希望する患者さんも多く,家族の希望で最も多いのも,「排泄さえ自立すれば,自宅に連れて帰りたい」というものです.患者さんや家族の思いをふまえ,退院後の生活を一緒に考えることが大切であり,それは在宅に移行してからも同じです.適切な排泄ケアが受けられない,オムツ交換ができずにスキントラブルを起こしてしまうといった患者さんに対しては,地域全体で継続的かつ統一した排泄ケアを提供できる態勢づくりが求められているのです.

そこで,秩父地域では『コンチネンスサポート連携シート』を活用し,情報共有をはかっています.当院で行っていた排泄ケアや排泄の自立をめざしたリハビリテーション,排便コントロールの状況といった情報を共有することで,継続的なケアが実践できます.また,地域全体の排泄ケアの質の向上を目的に,地域の看護師や介護職員向けに排泄ケア研修会を年4回開催しています.

 

看護主体で診療報酬算定の実現を

──排泄ケアへの取り組みが進まない理由はどこにあるとお考えですか?

排泄ケアは,多忙な看護業務のなかで生命にかかわらないからと後まわしにされているのが現状です.

秩父地域が排泄ケアに力を入れてきたのは,2008年に発足した秩父地域看護師会の方針による,いわばトップダウンでした.病院として,また地域全体として排泄ケアに取り組むことが明確に示されたことで,活動しやすい環境ではあったと思います.

しかし,実践の場では一人ひとりが意識をもって取り組むことが重要であり,正直なところ,当院でも完全に足並みがそろっているとは言いがたいところもあります.排泄委員は病棟ごとにいますが,『コンチネンスサポート連携シート』の活用も病棟ごとに差があり,排泄ケアへの意識の温度差はあります.“やらされているのではなく,自分たちでよりよくしていく”という意識をもたなければ,この差は埋まらないと思います.

私は認定看護師として,人材育成に携わっている立場でもありますので,今年度は,排泄委員が自律的に行動できることを目標に掲げています.しかし,ただ言うだけでなく,成果を目に見える形で提示することも重要ですので,排泄委員会としての活動の成果をデータとしてまとめて可視化したいと考えています.その成果を受けて次年度はさらに高い目標に取り組むこと,そのうえで繰り返し排泄ケアの必要性を伝えていくことがケアの質の向上や継続につながると思います.

もうひとつは診療報酬上の問題です.振り返れば褥瘡も研究を積み重ね,はたらきかけ続けたことで診療報酬が算定され,現在に至ります.排泄ケアもいままさにその過程にあるのではないでしょうか.

皮膚・排泄ケア認定看護師は,在宅患者訪問看護・指導料とストーマ処置料が算定できるストーマ外来や褥瘡ハイリスク患者ケア加算が算定できる褥瘡管理者としての活動が中心となっていますが,同様に,皮膚・排泄ケア認定看護師による個別性の高い排泄ケアプランの立案や実践が診療報酬の算定項目になれば,排泄ケアへの取り組みは進むと思います.

適切なケアは患者さんのADLやQOL向上につながるだけでなく,排泄が自立してオムツの使用量が減ったり,在宅に戻れる患者さんが増えれば医療費の抑制効果もあるのではないでしょうか.

しかし,排泄ケアがADL,QOLの向上に寄与するという科学的根拠を示す研究が少ないのが現状です.当院では看護研究として,排便を促す腰部温罨法や尿もれに対する取り組みも行っていますが,自治体レベルで大規模なデータを取ることも必要だと思います.

また,適切な排泄ケアを実施するためには多職種による連携も重要で,とくに排泄ケアは介護職員との連携が欠かせません.年4回開催の排泄ケアの勉強会も介護職員の参加が多く,とても熱心に学んでいます.

排泄ケアでは,排便コントロールも大きな課題のひとつです.とくに経管栄養を実施している患者さんは下痢の頻度が高く,肛門周囲のただれなどのスキントラブルが多くなります.管理栄養士と協働して経腸栄養剤の選択や投与速度などを検討したり,服用している薬について薬剤師などの意見も聞きながら,患者さんをトータルにみていく必要があります.こうした態勢をつくっていくことも必要ではないでしょうか.

 

排泄ケア向上に必要なのは人材育成と組織的バックアップ

──今後の課題を教えてください.

私は自分でオムツを当てた経験がありますが,そのときの不快感や違和感をはっきりと覚えていますし,実際に寝たままでの排尿はできませんでした.患者さんも同じ気持ちであることを看護師みんなに感じ取ってほしいですし,人間としての尊厳を守り,自立を尊重した排泄ケアに取り組んでほしいと思います.そして,地域のなかで高い意識をもったスタッフを育成しながら,地道に秩父地域の排泄ケアが向上するような取り組みを継続していきたいと考えています.

同時に,排泄ケアに注目が集まる仕組みとして,診療報酬の算定に向けたはたらきかけも必要です.皮膚・排泄ケア認定看護師が中心となって,科学的根拠のあるケアを確立していくことで,患者さんや家族が望むケアにつながればと思います.その実現に向けては組織的なバックアップも必要です.看護部が主体となり,地域全体で排泄ケアの確立に向けた活動ができるよう,看護部長や管理者が排泄ケアの重要性について認識を共有し,ともに取り組んでいく必要があります.