地域中核の急性期病院における 看護の質向上──排泄ケアからの取り組み

第17回日本看護管理学会学術集会共催セミナー開催
共催:ユニ・チャーム メンリッケ株式会社


「人口減少」「超高齢社会」における排泄ケア~病院で確立した排泄ケアを地域まで~

2013年8月24日(土),東京ビッグサイトで第17回日本看護管理学会学術集会が開催された.ユニ・チャーム メンリッケ株式会社の共催セミナーとして,排泄ケアの視点から地域中核の急性期病院で看護の質の向上をめざしている聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院の取り組みが紹介された.

──患者と家族のQOLを低下させる排泄ケアの課題

講演に先立ち,座長の小川氏が世界における排泄ケアの現状について,「WHOは,1998年に失禁を疾患として分類しました.排泄ケアの先進地域であるヨーロッパでは,ISOが排泄ケア用品の国際評価基準を定めるなど,排泄ケアが大変重要だという認識がもたれています」と説明.排泄ケアブランド「TENA」と,院内の課題解決につながる排泄ケアマネジメント手法「TENAソリューション」は,排泄ケアの国際評価基準ISO15621に沿ってつくられているという.

ヨーロッパでは,失禁が患者や介護者のQOLの低下をまねき,国家財政などにも多大な影響を及ぼすとして,これらの課題に対処するため,2006年から2年に一度,GFI(国際失禁フォーラム)が開催されている.小川氏は,2012年のGFIにおけるスウェーデンのヨーテボリ大学産科婦人科学部イアン・ミルソム教授の講演から,「ミルソム教授は,“今後40年間で失禁問題は大きくなる.失禁の予防に携わらなければならない”と述べ,失禁は患者さん本人,介護者の人生にまで大きな影響を及ぼすこと,そして経済的にも大きな負担となると解説しています」と紹介.

続いて小川氏は,イギリスの在宅介護分野で活躍したシェフィールド大学老化研究所のマイク・ノーラン教授の講演から,「排泄ケアで重要なことは,“専門家が介護者に必要な情報を提供すること”“困難を減らすだけでなく,満足度を向上させること”ことだと述べ,情報の大切さと介護者のQOL向上の重要性を強調しました.なかでも,情報を活用することで,ただちに患者さんと介護者のQOLは改善できると説明しています」と解説.

日本では,政府の社会保障制度改革国民会議の報告書によって,高齢者介護サービスを在宅,地域にシフトするという方針が打ち出されている.そのなかで排泄ケアは,「介護力に配慮して精神的,身体的負担を軽減でき,皮膚トラブルなどが起こらない排泄ケア製品を提供すること,わかりやすい情報を提供し,指導を行うことが求められています」と解説.さらに在宅も含めた排泄ケア全体の基盤は地域に根ざした病院にあるとしたうえで,「排泄ケアの取り組みによって,①患者の安心・安全,②業務改善,③看護の質の向上,④経営効率,という4つのアウトカムを期待することができます」と話した.

最後に,「退院時に今後の排泄ケアへの適切な指導や情報提供を行い,次の施設や在宅につなぐことができれば,安心して地域における排泄ケアを継続することができます」と結んだ.

──TENA導入により褥瘡リンクナースを中心に活動オムツ交換回数,使用枚数が減少

続いて講演に立った廣瀬氏は,聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院における排泄ケアの取り組みの経緯について,「当院の副院長が参加したセミナーで,他施設のTENA導入事例や排泄ケアへの取り組みを聞き,4つの関連病院の看護部長会でTENAのオムツ使用の意義の説明と試行の提案がされました.当院のオムツ使用状況を確認したところ,想定以上にオムツを使用していることがわかったため,患者の生活の質向上をめざし,TENA導入による排泄ケアの取り組みを開始しました」と説明した.

2012年9月に行った同院のオムツ使用実態調査結果について,「オムツ使用患者は病棟の10%程度,4~5人をイメージしていましたが,実際には15人,なかには20人近い病棟もありました」と説明.院内全体でも30%,3人に1人がオムツを使用していることがわかった.さらにその内訳では,24時間オムツを使用している患者が60%を超え(図1),患者数では,救命救急センター,脳神経外科・整形外科・耳鼻科の混合病棟(3南病棟)がとくに多いことが明らかになった.そこで3 南病棟でTENAの試行として,3人の患者を選出し,TENA使用前2日間とTENA使用中の2日間を比較した.今回の試行に伴い,リネン担当者とオムツの供給方法について検討し,看護師への説明会や実践指導を実施.褥瘡委員会の褥瘡リンクナースを相談窓口にするなどした(表1).

褥瘡リンクナースが中心になり試行した結果,オムツ交換は従来の1日7.5回平均から,3.5回に減少.1回のオムツ交換にかかる時間が同じであると想定した場合,1日の所要時間が半分になることがわかった.また,オムツ使用枚数は従来のものでは3人で1日37枚だったものが,TENAでは10枚と大幅に減少(図2).「従来はパッドの重ね使いにより,枚数を多く使用していたことがわかりました」と説明した.

さらに,オムツ交換回数が減少したことで,オムツ交換時のエプロンや手袋の使用枚数も削減.「オムツ交換回数は4.0回,交換時間も1日換算で24分,使用枚数も27枚減少しました.さらにオムツ交換にかかる物品費用,使用済みオムツの廃棄費用の削減などのメリットもあることがわかりました.これなら,全病棟で使用するメリットがあるのではないかと考えました」と説明した(図2).

──TENA導入により排泄ケアのアセスメントへの意識が向上

全病棟での導入に向けて,2013年4月から説明会,勉強会を開始した.「各病棟でオムツの使用状況は異なるため,1~3回目は看護師が多い救命救急センターを中心に行いました.その後随時,各病棟でタイミングをずらしながら勉強会を実施しました」と廣瀬氏は説明.勉強会は,排泄の基本的な知識からTENAの使用方法,TENAを実際に各自が実際につけて感触を体験するなど,実践的な内容を盛り込んだという.

そして,「WOC領域の専従ナースによるワンポイントレクチャーが大変役立ちました.日々の実践を交えながら排泄ケアの基本知識を学ぶことができるとともに,改めて基本的欲求とは何か,そのなかで生理的欲求である排泄行為とは何かということを確認できました.生命の尊厳への配慮,つまり,便・尿失禁患者さんへの配慮について,現場の声に即して講義してもらうことができました」と話した.

続いて廣瀬氏は,TENA試行後,継続的に使用してきた3南病棟の看護師に対して行ったアンケート結果を紹介(図3).8項目のうち,「転棟・退院時に引き継ぎをする」「皮膚トラブルの減少」以外は,「思う」「少し思う」の割合が50%を超える高い評価となり,「TENA導入によって,患者にとって最も適切な排泄ケアについて改めて考える機会になったり,変化を実感してもらうことができたということがわかります」と説明した.

なかでも廣瀬氏が今回のアンケートで重要だと感じているのが,「『排泄ケアのアセスメントをする』という項目の評価が高かったこと」だと指摘.「今回を機に,看護師の排泄ケアへの意識が高まったことが感じられます」と評価した.

自由回答では,「夜間は吸収力があってよいと思う」「睡眠時間がとれているような印象がある」などの回答が複数寄せられたという(表2).廣瀬氏は,「TENAは外から見て濡れているかどうかがわかるので,オムツのチェック回数が減少し,患者・看護師双方の負担が軽減したと思います.また,『患者さんから睡眠時間が拡大したと言われた』という声があがったのは大変うれしかったです.導入後,半年を過ぎてからは,看護師もケアが充実しているという実感をもっているように感じます」と話した.


──オムツの特徴を理解したうえで個別性の高いオムツ選択を実施

次に廣瀬氏は,皮膚トラブルの減少にTENAが寄与した事例について,「入院した時点で皮膚損傷があった患者さんです.長期間オムツと尿パッドを使用していましたが,入院時から肛門周囲の発赤,左鼠径部の皮膚剥離がみられ,カンジダ皮膚炎もありました.体重増加による皮膚密着が強く,常時,便・尿失禁がある状態でしたので,カンジダ皮膚炎の軟膏処置をしながら,石けん洗浄,トイレでの排泄誘導などを行いました」と解説した(図4).

トイレでの排泄誘導になかなか応じず,便・尿失禁が退院時まで継続していた患者だった.そのような状況でも入院時に著明だった浮腫も改善し,体重が減少,殿部の発赤も改善したという.「皮膚の状態が改善した印象深い事例となりました」と廣瀬氏は説明した.

現在,全病棟でのTENA導入から約半年が経過し,新たな課題もみえてきているという.「オムツの使用状況を調査したところ,TENAのサイズ選択が適切になされていない現状が明らかになりました.今後も排泄ケア向上のための教育や看護師の意識を変えていくための取り組みが必要だと感じています」と廣瀬氏.これに加え,各病棟の特徴をふまえた排泄援助,オムツ使用中の皮膚トラブル予防の強化,退院後のオムツ使用患者への排泄援助の充実が今後の課題だという.

しかし,今回のTENA導入をきっかけに,「私たちが学ばせてもらったのは,患者さん個々に合ったオムツを選択することの大切さ,さまざまなオムツの特徴を知る必要があるということです.さらに,アセスメントするための知識,オムツを適切に使用し,オムツかぶれや尿もれを改善するための技術を習得することが重要です」と廣瀬氏は語った.

排泄ケアの質的向上への取り組みが成果をあげていることに対しては,「看護師による個別性の高い排泄ケアが実践可能になり,褥瘡リンクナースの活動によって学びの機会を得たり,WOC領域の専従ナースの教育や指導力が発揮されたことが大きかった」と,評価した(図5).

講演終了後,小誌の取材に対して廣瀬氏は,「地域中核の急性期病院である聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院看護部としての使命は,“地域の人々の医療と看護環境を守り,向上させる”ことだと考えています.

排泄ケアは,ご家族にとってもとくに重要な問題です.今回の取り組みを通して,病院で行う最適なケアを後方支援病院や退院される患者さんにも伝え,安心できる暮らしを支援していけるよう,次の取り組みを考えていきたいと考えています」と語った.