QOL向上のためにいま日本で動きはじめた排泄ケアの変革

前回,世界No.1*シェアの排泄ケア用品ブランドTENAを日本で展開するユニ・チャームメンリッケ株式会社のオケ・ヒルマンさんに,高齢者福祉の先進国であるスウェーデンの医療システムと排泄ケアの現状をうかがった.そのなかで,スウェーデンでは排泄ケアが患者のQOLに大きく影響するものとして重視され,看護師が中心となって取り組んでいることがわかった.今回はオケ・ヒルマンさんと国立長寿医療研究センターの吉田正貴手術・集中治療部長との対談から,日本の排泄ケアの現状と,未来志向で排泄ケアを考えるためにすでに始まっているさまざまな取り組みの一部を紹介する.

*成人用排泄ケアパッド用品の売上高(2011年SCA調べ)

 

統一された排泄ケアの方法がなく実践的な教育や研修の機会が少ない

──日本の医療・看護の現場で,排泄ケアは十分に取り組まれているとお考えですか? また,そこでの課題や問題点はどこにあるとお考えですか?

吉田 排泄ケアに熱心に取り組む看護師や介護職員,高い問題意識をもつ泌尿器科医もいます.しかし,尿失禁は病気だと定義されているにもかかわらず,他科の医師などには認知症の合併症のひとつととらえられるなど,病気としての認識が薄いという印象があります.

排泄ケアが十分に取り組まれていない理由のひとつは,看護師や介護職員に対する教育や研修が行き届いていないことです.スウェーデンのような専門的な教育のシステムがなく,統一された排泄ケアの見解や方法,手順などに関する教育や研修が十分に行われていないため,ケアの方法が浸透しないのではないでしょうか.

2つ目の理由は制度の問題です.日本では,排泄ケアに力を入れても診療報酬上の加算はなく,自治体などによるオムツ代の補助も一部です.その点がスウェーデンとの大きな違いでしょう.しかし,制度を変えるには時間がかかるので,看護師や介護職員の意識を高め,ケアの浸透をはかることが大事です.それが徐々に実を結び,患者さんのQOL向上や医療費削減などのアウトカムが出てくれば,制度面にも反映されてくるのではないかと思います.

──現状,排泄ケアに関する教育や研修はどのように行われているのでしょうか?

吉田 看護学生もオムツのあて方など一般的な排泄管理は学んでいますが,具体的なケアの方法は入職後,各施設で研修を行っているのでしょう.当センターでは排泄ケアチームの看護師が担当していますが,排泄ケアに時間を割いている病院はまだ少なく,興味のある看護師以外は学ぶ機会がないのが現状だと思います.

 

排泄ケアの普及や研究支援のために排泄ケアに関する研修センター設立を計画

──看護師や介護職員への教育を充実させるために必要なことは何でしょうか?

吉田 標準化された排泄ケアの方法を,全国に行き渡らせることが必要だと考えています.全国へのアンケート調査では,「関節拘縮のある患者さんなどのオムツ選びに困っている」という声はたくさん聞かれましたし,カテーテル管理の方法,オムツのにおい対策など,さまざまなことに困っているという回答が得られました.そこで当センターでは,排泄ケアのマニュアルを作成したり,それをもとに全国の専門職に対して教育を行う機能をもつ高齢者排泄ケアセンター設立の準備を進めています.スウェーデンでは,看護師に対する教育はどのように行われていますか?

オケ スウェーデンでは,泌尿器科医は手術などの治療に特化しており,オムツ選択や骨盤底筋体操などの指導やケアはウロセラピストという排泄ケア専門の看護師が担当しています.そのため,ウロセラピストを対象にしたトレーニングプログラムが用意されています.

吉田 排泄ケア実施マニュアルの作成に際しては,全国の介護老人保健施設や在宅ケアセンターなどを対象に,現場でいま困っていることをあげてもらいました.それに対する回答などもマニュアルに加える予定です.教育や研修方法の検討はこれからですが,当センターを活用したり,各地域に講師が出張してもよいでしょう.

排泄ケアの教育・研修だけでなく,各施設で検討している研究のプロトコルやデータ解析などの面でも支援したいと考えています.時間はかかると思いますが,多くのアウトカムが集まることで,行政にも反映できるのではないでしょうか.また,排泄ケアの評価の指標やアセスメントのやり方もスウェーデンを参考にできると思います.

オケ 専門職に対する教育も必要ですが,在宅介護者への働きかけをもっと行う必要があると思います.

吉田 オムツの使い方や選び方などは地域での勉強会を行い,患者さんの意識を高めていくことも必要です.当地域でもオムツの使い方などについて,看護師や介護職員,要介護者の家族などを対象にした勉強会を開催したいと考えています.

また,一般向けの市民公開講座をもっと充実させるのも一案です.泌尿器科領域では尿失禁や前立腺肥大症などに関する市民公開講座は多くありますが,高齢者の排泄ケアの具体的な方法やオムツの使い方などをテーマにしたものはまだ数少ないのではないでしょうか.

オケ 多くの介護者は,どのオムツもほぼ同じだと考えています.こういう現象がある場合にはこういうオムツがいいとか,いま困っている問題に対してはこういう解決策があるという情報ももっと提供していく必要があるでしょう.

 

排泄ケアはチームで取り組み 活動を地域にひろげていくことが重要

──排泄ケアを充実させるために各施設でいまできることは何でしょうか?

吉田 各施設での取り組みとしては,チームでの活動が重要です.国立長寿医療研究センターには排泄ケアチームがありますが,排泄ケアチームでの活動を地域へとつなげていくなかで看護師同士が連携をはかり,よいケアを継続させていくことも重要になります.そして,その際必要となるのは,アセスメントに基づいた適切な排泄ケアの方法と,適切な用品を使用するための情報だと思います.

オケ TENAでは,TENAアドバイザー*1が病院・施設の専門職に対する排泄ケアに関するサポートを行っています.

吉田 具体的にはどのようなサポートがあるのでしょうか?

オケ 患者さん個々の状態に合わせた適切な製品選択方法,適切な使用方法,また課題解決へのサポートなどがあります.CST(コンチネンスサポートチーム)*2がチームとして活動することにより,患者さんへのケア向上はもちろん,看護者の業務環境の改善など院内のさまざまな課題解決につながります(図).

当社のTENAアドバイザーはCSTの活動をより効果的なものにするため,サポートも行います.また,問題が解決されたかを評価し,次のアセスメントにつなげるというサイクルをまわしていくために,定期的に行われるCSTミーティングに参加したり,オムツの適正使用の評価に役立つオムツ使用量のレポートなども提供しています.

──排泄ケアのチーム医療推進のために必要なことは何でしょうか?

吉田 いちばん大事なのはボトムアップをはかることですが,看護師や介護職員が一生懸命排泄ケアに取り組んでも,相談できる医師がいなければチーム医療は進みません.地域の施設とどのようにかかわればよいのかがわからないという医師もいますので,そのつなぎ役となる看護師が出てくればもっとスムーズに進むのではないでしょうか.地域で核となる施設があり,そこがサポートして地域の排泄ケアにかかわるスタッフとしてコミュニケーションをはかったり,相談にのれる態勢ができれば,地域の排泄ケアも充実してくると思います.

現在計画中の高齢者排泄ケアセンターで研修を受けた看護師や介護職員には,地域で排泄ケアをひろめる役割を担ってもらいたいと考えています.患者さんに合わせた適切なオムツの選び方や正しい製品の選択方法,使い方の情報を患者さんが自宅に戻るときにきちんと伝えることで,スムーズな在宅移行にもつながるのではないでしょうか.

*1 TENAアドバイザー:施設・病院のコンチネンスケアの課題やコスト効率を分析してサポートする専門アドバイザー
*2 CST: continence support team(コンチネンスサポートチーム),病院・施設で働く専門職が患者,利用者の排泄を最適な状態にするために知恵や技術を出し合い,適切な排泄管理,サポートを行うためのチーム