QOL向上を目指したスウェーデンの医療システムと排泄ケア〜日本への提言

高齢者福祉の先進国として知られる北欧・スウェーデンで生まれた世界No.1 シェア*の排泄ケア用品ブランドTENA.個別ケアの考えに基づき,トータルコストの削減,排泄ケアの質の向上を目指したTENAブランドによるサービスを日本で展開するユニ・チャーム メンリッケ株式会社のオケ・ヒルマンさんに,排泄ケアを重視するスウェーデンの医療システムの現状や看護師の役割についてうかがった.
*成人用排泄ケアパッド用品の売上高(2011年SCA調べ)

 

日本より約10 年早く高齢化が進み在宅ケアの充実が不可欠に

──スウェーデンの高齢者ケアの現状と医療システムについて教えてください.

まず,スウェーデンの高齢者ケアにおいては,①自宅で生活することがQOLを向上させる,②自助と自立のための支援が提供される,③患者自身が意思決定に参加する,という3 点が根底にあります.
すべてのケアは自立支援のために行われるべきであり,その選択肢を選ぶのはご利用者自身,あるいは家族である,という考え方です.

スウェーデンでは,日本よりも約10 年早く高齢社会に突入しており,日本と同様に高騰化する医療費への対応が大きな課題です.しかしスウェーデンは,所得税30%以上,消費税25%と,日本とは税率が異なります.さらに,政府の少子化対策と移民政策によって納税者人口確保のための対策が進んでいることをふまえると,日本のほうがより深刻な状況にあるといえるのではないでしょうか.

スウェーデンでは,医療費抑制策の一環として,20年以上かけて在宅医療の制度や態勢を充実させてきました.実際に高齢者人口は増加の一途をたどっていますが,病院のベッド数は,1980年の12万床から2011年には2万5000床に,日本の特別養護老人ホームなどに相当するナーシングホームも約20 年前の15 万床から9万床に減らされています.

スウェーデンの医療システムは,政府機関や省庁などがガイドラインを決めたり,人員・予算の配分を行っており,医療は県の,介護は市町村の管轄となっています(図1).医療システムは3段階に分かれており,急性期以外,患者様はまず日本の開業医にあたるプライマリ・ケアユニットを受診します.プライマリ・ケアユニットには設備も整っていますが,対応ができない場合には地域の病院に,さらに必要に応じて大学病院や高度医療施設に紹介するという日本の医療に近いシステムをとっています.

退院後のリハビリテーションや経過観察が必要な患者様に対しては,市町村が運営する介護サービスや在宅医療,訪問看護によるケアが提供されます.以前,在宅医療サービスは県の管轄にありましたが,ほかの在宅ケアサービスとの連携を推進するために,徐々に市町村管轄へと変わってきました.在宅医療やケアサービスは,日本の介護保険のように要介護度によって利用限度額が異なるものではなく,市町村によるご利用者のアセスメントによって必要だと判断されたサービスを一定額の自己負担だけで受けることができます.

在宅ケアは介護者なくしては成り立ちません.そこで,介護者にも必要なサポートが提供されているのも大きな特徴です.介護者には,在宅介護に必要な知識や技術を習得する研修が用意され,市町村から一定額が支払われるしくみとなっています.また,介護者の負担軽減のためのショートステイやデイサービスなどもあります.これは,自宅で過ごすことが,ご利用者のよりよいQOLにつながること,病院に入院するよりも社会的コストが抑えられるという考え方によるもので,現在スウェーデンでは,約30万人が在宅ケアを,約9万人が介護施設でケアを受けています.

 

視覚障害,聴覚障害以上に失禁症状はQOL低下をもたらす

──スウェーデンにおける排泄ケアの考え方を教えてください.

失禁の症状があることは,QOLに大きく影響します.疾患や症状のなかで最もQOLに影響するのは認知症ですが,失禁症状も視覚・聴覚障害以上にQOL低下をもたらすことがわかっています.

また,認知症の症状がある人の多くに失禁の症状もみられ,2つの症状の合併は,在宅ケアの大きな妨げになります.適切な排泄ケアを行うことは,QOL向上につながるだけでなく,自宅での生活を継続させるためにも重要なポイントになるのです.

1998年,WHOによって失禁症状が病気であると認定され,スウェーデンでもできるだけオムツを使用せず,治療できるものは治療するという考え方が定着しました.それでも失禁症状が改善しなければ,できるだけ小さなパッドを使用します.小さなパッドが選ばれる理由は,患者様の尊厳を守ること,衣服の上から目立たず快適に過ごせること,費用が安いことなどです.

スウェーデンをはじめとする北欧諸国では,失禁用パッドの費用も健康保険によってカバーされており,失禁がある人のパッド利用率はほぼ100%です.これにより,たとえ失禁の症状があってもQOLは向上し,積極的に社会活動に参加できるのです.

 

すべての看護師が排泄ケアを学び専門知識をもつ看護師も活躍

──排泄ケアが必要な高齢者が自宅で過ごせるための支援態勢は?

スウェーデンでは,失禁用パッドは患者様個別に調剤される処方薬と同じように,“パッド処方看護師”によって処方されているのが特徴です.また,すべての看護師が排泄ケアに関する基礎的な教育や研修を受けており,プライマリ・ケアユニットには,排泄ケアのアドバイスができる看護師が必ず配属されています.なかには,泌尿器科医,婦人科医,ウロセラピスト(看護師),パッド処方看護師のいずれかが配属されているユニットもあります(図2 ).

地域のなかにはインコンチネンス・クリニックという失禁治療専門クリニックがあり,必要に応じて治療を受けることができますし,手術などの専門的治療が必要な場合は大学病院に紹介されます.

在宅介護サービスのご利用者が排泄介助を受ける場合,訪問介護員が記入した排泄状況のチェック表に基づいて訪問看護師がオムツを処方したり,必要に応じてプライマリ・ケアユニットにつないでいます.地域で排泄ケアの専門的知識をもつ看護師が適切なアセスメントに基づいてケアを行ったり,病院と連携する態勢が整っていることが,在宅ケアの維持,推進におおいに役立っています.

──スウェーデンにおいて排泄ケアが重視されてきた理由と,今後日本でその状況をつくるために求められるものについて,どのようにお考えですか?

理由は3 点あります.1点目は失禁は疾患であり治療が必要であること,2点目は失禁症状はQOLに大きな影響を及ぼすこと,3点目は適切な排泄ケアの実施が患者様の自立につながり,自宅での長期間の生活の継続につながること,です.

そして何より重要なのは,すべての看護師に排泄ケアの基礎的な教育や研修が提供されていること,また,職務の範疇に排泄ケアが組み込まれていることだと思います.

私たちは,TENAブランドを通じてヨーロッパをはじめ世界各国で個別性の高い排泄ケア,尊厳を重視した排泄ケアの重要性を伝え,医療や介護スタッフをサポートしてきました.私たちの活動と医療・介護現場のニーズが医療システムとして反映され,安心して在宅に移行できる態勢づくりが進められてきたという背景もあります.

日本の看護師も,排泄ケアの充実がQOLに影響を及ぼすことは理解していると思います.ユニ・チャーム メンリッケでは,TENAブランドを通じて,入院時だけでなく,退院後自宅に戻ってからも患者様が適切な排泄ケアを受けることができるよう,CST*1 運営ガイドなどのツールを活用しながら,TENAアドバイザー*2 によるサポートを充実させていきたいと考えております.

治療の進歩による平均寿命の延長によって,いかにベターライフを送るかが課題となっています.今後さらに,QOLを重視した個別性の高い排泄ケアの提供が求められていますが,看護師による適切なアセスメント,治療,ケア,オムツの選択によってそれが可能になるのではないでしょうか.

 

*1 CST: continence support team(コンチネンスサポートチーム),病院・施設で働く専門職が患者,利用者の排泄を最適な状態にするために知恵や技術を出し合い,適切な排泄管理,サポートを行うためのチーム
*2 TENAアドバイザー:施設・病院のコンチネンスケアの課題やコスト効率を分析してサポートする専門アドバイザー